区切りの目的
人間はより便利なものへと執着する部分を持っている。境界の発生は「内」をまもるものとして、より広大なものとして成長していった。己の肉体をまもる皮膚から服、家、地域、国家と様々な人為的な境界を作りあげていった。人為的な境界と挙げているが、いわゆる「区切る」といった行為であり、人工的に空間を2つあるいは3つ、4つ…と分断する性質をもつ。そして分断することでできた領域を「言語化」することで空間を認識することができる。そうした空間の人為的な切り方、もしくは言語化の差異が、民族固有の文化事象としての空間差異を示すことになる。
人為的な境界「区切り」がどのような手法で「内」という「われわれの世界」を獲得していったのかを考えてみたい。
区切りの構造
一般に区切り方の構造として、二通りの方向を見いだすことが出来る。第一の方向は物理的な方向である。つまり恒久的で動かすことのできない障害物のことで、アナログでもデジタルでも力に抵抗するものである。第二の方向としては、視覚的な方向である。物理的な方向と違い力に対するものではなく、内と外との見え方で開放的になったり、閉鎖的になったりするものである。
物理的な方向
物理的な方向として、最も顕著な例としてはいわゆるコンクリートに代表されるような「壁」である。壁の最も大きな目的は遮断である。壁は人や動物、風音、光・音・熱などの外部からの侵入を防ぐ目的で設けられることが多く、一般に外周壁では風雨・間仕切り壁では音、野外に設けられる壁では人の遮断が最重要視される。
使用される場所や状況に応じて特別の機能を持たせる壁もある。遮音性を特に高めた防音壁、音の反響を防ぐ吸音壁、火事の際に延焼などを防ぐための防火壁、放射線が漏れるのを防ぐ放射線遮蔽壁、「収納」と「部屋を仕切る」機能を融合した収納壁など数多く「壁」といわれるものがある。
一方で、壁が内と外とを隔て、外界からの影響を遮断するものであることから、転じて心理的あるいは抽象的に何かを隔てるもの、あるいは行く手に立ちふさがる大きな障害を比喩的に壁と呼ぶこともある。例として、「男女の壁」「世代の壁」「記録の壁」「心の壁」「言葉の壁」「バカの壁」などが挙げられる。デジタル面でいうと、コンピューター用語としてのファイアーウォールは、コンピューター・ネットワークに於いて通信の内容を監視し、外部からの侵入活動などを遮断する役割をもつソフトウェアあるいは機器をさす。
また、大きくのっぺりした平らな面といった形状から壁と呼ばれる構造物もある。例えば、山岳用語では海岸段丘や山の崖などにおける平らな垂直部分を壁または壁面と呼ぶ。あるいはコンピューター用語でGUIに於いて、背景として置く画像を壁紙と呼ぶのもこのような比喩である。天文学の世界でも、宇宙の大規模構造における超銀河団の数億光年にわたるつながりが、グレートウォールと呼ばれている。
視覚的な方向
物理的な方向とは異なり、視線を遮るものの度合いによって視覚的に訴えるもので、内と外の関係性を作り上げることである。例えば、コンクリートとガラスとで比較してみると物理的な方向では、両者ともびくともしない強固なものであるが、コンクリートという一切内と外を視覚的に遮るものに対し、ガラスに付随する透明性があることで内が外に対して開放され、見えることで区切りの役割を曖昧なものとなる。
モホリ=ナジのいう「ヴォリュームの閣面がそれぞれ異なった方向に四散すると、新しい空間の関係が生まれる」という空間の相互滲透という空間概念と似たように、透明性を認知することで内と外の関係性が変化することでもある。
特に、日本に於いては門、閾、関守石、沓脱石など一種の装置的なものが多く見受けられる。例えば、注連縄といわれるように「しめ」という言葉が日本にはあるが、「しめ」は「占める」の意味をさす。「占める」は「占有」を意味し。しめによって表示された境界の「内」を表す。例えば、四本の柱を注連縄によって囲まれた領域を神の空間「ヒモロギ」と認識することができる。この場合の「占める」は、聖域を表し注連縄はその結界を示すのである。